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連載 西村尚子の生命科学探訪⑯
生命の起源は宇宙にある? 待たれる、はやぶさ2の帰還

コラム, テクノロジー

はやぶさ生命の起源

はやぶさ2が、地球から約2.4億キロ離れた小惑星リュウグウに再着陸しました。今回は、惑星の地下に眠る石を掘り起こして採取したとのこと。目的は、岩石中から「生命の起源に結びつくような有機物(たとえばアミノ酸など)」がみつかるかどうかを解析することにあるとされます。小惑星とは、約46億年前の太陽系形成時に、惑星になり損ねた天体の総称。火星と木星の間などに、数十万個存在するということです。

地球上の生命は、約43億年前の原始的な海の中で誕生したとされます。ただし、海がどのようにしてできたのか、そこに溶け込んでいた多様な有機物がどのようにもたらされたのか、といったことには諸説があり、決着がついていません。教科書的には、「生命誕生前には化学進化とよばれる段階があり、火山爆発や雷が多発する不安定な原始地球において、水素、窒素、炭素などの無機物から、水、アミノ酸をはじめとする単純な有機物が合成された」などと説明されています。根拠の一つとされるのは、化学者のスタンリー・L・ミラーとハロルド・ユーリーが1950年代に行なった実験です。ミラーらは、原始大気の成分とされた「メタン、アンモニア、水素、水の混合物」のなかで放電しては加熱し冷却するという操作を繰り返し行い、5種類のアミノ酸が生じることを確認したのです。

ところがその後、原始地球の大気組成はミラーらが考えていたものとは異なるとわかり、彼らの説はほぼ否定されました。さらに、質量分析装置などにより、地球に降ってきた彗星や隕石が詳細に解析されるようになり、そのなかにはアミノ酸を含有するものもあるとわかりました。つまり、「生命の材料が地球でできたのではなく、地球外からもたらされた可能性」や、「隕石が地球に衝突した際にアミノ酸が生成された可能性」が濃厚になってきたのです。そのため、生命進化の前段階である化学進化が、いつ、どこで、どのように起きたのかという議論が再浮上することになりました。

このような背景の下、リュウグウを含む小惑星の約7割が内部に水や有機物を含有しているらしいとわかり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による「はやぶさ2プロジェクト」が計画されました。地球への帰還はまだ先ですが、もち帰った試料からアミノ酸が見つかれば、長年の議論に終止符が打たれることになるかもしれません。

「生命の材料が宇宙からやってきた」とは、なんともロマンあふれる話ですが、さらに壮大な説を唱える研究者もいます。たとえば、カリフォルニア工科大学 地質学・惑星学部門の教授で東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の主任研究者でもあるジョセフ・L・カーシュヴィンク氏は、「生命は火星で誕生し、隕石とともに地球にやってきた」と考えています。根拠の一つは、「オゾン層と海と陸地があったとされる原始火星の火山地帯などでは、DNAやRNAを合成するために必要なリボース(単糖類の一つ)が生成可能」と推定されることにあるようです。

40億年以上前の火星に、リボース、水、アミノ酸、脂質などが揃っていたとすれば、現存する古細菌(無酸素、高熱、高塩分、高メタンなどの極限環境を好む細菌)のような原始生物が誕生したとしても不思議ではないように思います。もちろん、「原始生物が火星で誕生し、隕石に含まれた状態で地球に運ばれたとしても、大気圏突入時の摩擦熱で死滅したはずだ」との反論もあります。その点についてカーシュヴィンク氏は、超伝導量子干渉計という特殊な機器を使って検証し、隕石内部には熱の影響が及ばないことを確かめたとしています。

生命の材料、あるいは生命そのものの起源が、地球ではなく宇宙にあるとなれば、地球外生命体が存在する可能性も高まりそうです。果てしない宇宙のどこかに、私たちの地球のような惑星があるのでしょうか? スターウォーズの旧三部作に魅せられた一人としては、どこかにヨーダやジャバ・ザ・ハットがいると想像するだけで心が踊ります。

サイエンスライター
西村 尚子

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